首都大福東京

TOKYO METROPOLITAN DAIFUKU

首都大福東京

梅園 浅草本店【浅草@東京メトロ銀座線 都営地下鉄浅草線】

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豆大福(つぶあん):216円


浅草の甘味専門店『梅園』にも、
もちろん「豆大福」は売られている。
パリパリのビニールで包まれたソレは、
厳重に閉じた中に悠々と納まっている。

表面は意外にデコボコしているが、
それが全て豆の仕業では無さそうである。
何せ全体を真っ白な片栗粉を纏って、
豆から餅まで容赦なく覆い隠している。
多少片栗粉が剥がれた所があって、
黒い影が浮かんでいるのが見えても、
それが豆なのか餡子なのか判断しかねる。

ビニールを剥がすために手に取り、
持ち上げてみると意外に重たい。
ズシリと密度のある重みが指に掛かり、
ビニールが尖り指の腹に食い込む。
そっと裏返して慎重に剥がすと、
片栗粉が舞う中「豆大福」は解放される。
平地に降り立った姿は丸座布団の様で、
大きさは大体60㎜位に仕上がっている。

じかに見るとやはり片栗粉は分厚く、
製造過程の跡がハッキリ判る程である。
枯山水の様な筋が幾つも走る表面には、
青味が掛った影が淡く浮かんでいる。
表面のゴツゴツも片栗粉の下に、
わずかに黒いシルエットが浮かぶ事で、
ああ赤エンドウ豆なのかと判断できる。
起伏に富んだ「豆大福」の表面にあって、
庭石の役割となってアクセントを生む。
加えて餅の本来の色味や肌ツヤも見えて、
雪の様な透明感に薄い亜麻色が差す。
その明るい色味が片栗粉の白の中で、
より有機的で艶やかな印象を与える。

摘まんでみると片栗粉が束で崩れる中で、
餅がブリンと震える弾力を発揮する。
指先に触れた感じはとても柔らかで、
包み込む様な緩さがシットリ伝わる。
しかしハリが強いので大きは変形は無く、
当初の姿を何時までも保ちながら、
指の間でひたすら重力に反抗し続ける。

そこからゆっくり口へ運ぶと、
「豆大福」を押し潰す唇を片栗粉が覆う。
その奥で分厚い皮の様な餅が、
弾力以上のハリを発揮して立ちはだかる。
さらに押し込むと餅は潰されずに、
「豆大福」全体が扁平し始め、
あわせて片栗粉が一斉に剥がれ落ちる。
次に歯を立てて餅に切り込むと、
ブチリと小さな音を発てて餅が千切れ、
ゴロンと「豆大福」の半身が転がり込む。

すると直ぐに餅はハリを取り戻し、
口の中で噛み口が広がり始める。
餅の断面は色が濃く灰色が強い。
その中には外から想像できない程、
沢山の赤エンドウ豆が入っている。
厚さはそれ程ではないが、
この濃い色味が弾力の源なのか、
独特の風味を伴ってシットリ輝きを放つ。

やがて一斉に噴き出すアズキの風味と、
粘度の高い餡子が舌の上へ投げ出される。
触れた所からは確かな甘さが広がり、
一気に舌の上に広がり覆い尽くす。
急ぎ餅を咀嚼すると強靭な弾力を発揮し、
中に残った餡子を残らず押し出す。
一瞬で味覚と嗅覚を支配した餡子は、
必死にもがく舌の上で緩やかに伸びた後、
弾み続ける餅に絡まり更に柔らさを得る。

一方、餅の中に潜む赤エンドウ豆は、
優しい食感を伝えながら次々潰れて出す。
弾力があって食感が優しい赤エンドウ豆は、
表面にタップリ皺が出来ている。
ソレをグニッと押し潰した中からは、
ほんのり漂う塩気と素朴な豆の風味、
それにまろやかな甘さがじんわり滲み出る。

今まで豆があった所には次々餡子が入り込み、
その水気で餅の結束へ干渉しはじめる。
やがて柔らかさが極に達した場所から、
次々に餅は千切れて遂には細切れになる。
それが餡子の中に漂いながら、
口の中をスルスル回遊し始めると、
遂には善哉を彷彿させる口当たりになる。
しばらくの間、舌に染み込む餡子の甘さと、
鼻腔を抜けるアズキの風味に身を浸す。
やがて堪らず飲み込もうとする欲求に従い、
コクリと喉を鳴らして「豆大福」を飲む。

その後も濃厚に漂う餡子の甘さと風味が、
少しも変わる事無く能力を発揮し続けている。
さすが創業一六〇余年を誇る老舗の味は、
正しく歴史が紡ぎだし和の伝統食である。



梅園 浅草本店
東京都台東区浅草1-31-12
10:00~20:00
水曜 定休 月2回不定休
1番出口から雷門へ向かい、仲見世通り左手に沿って伸びる小路を進んだ先。

和菓子司 磯崎家【穴守稲荷@京急空港線】

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豆大福(つぶあん):150円


穴守稲荷『磯崎家』の「豆大福」は、
ビニール袋に大きく“福”と記された、
自他ともに認める“福菓”である。
その“福”の合間からチラチラと、
「豆大福」の白と黒が見え隠れしている。

先ずは全体を見る為に、
袋から取り出す事を始める。
そっと手に取った「豆大福」は、
ビニール越しでも大変柔らかい。
十分な重さが指先にのしかかり、
餅がビニールごと包み込んでくる。
とはいえ袋に餅が貼り付く事も無く、
サワサワ滑らかに納まっている。
なので袋の口を下に向けてしまえば、
スルスル滑り降りて外に出てくる。

それを受け止め改めて観察すると、
大きさ約58㎜のほぼ半球体である。
繭玉の様な外見は白く滑らかで、
毛羽立ったり落ち窪んだりと、
造形の荒々しい所はほとんどない。
裾に少しダブついた所もあるが、
それは餅の柔らかさの証だろう。

表面の片栗粉には淡い模様があり、
それがぼんやり立体的な質感を生む。
加えて周りの光を反射しては、
表面に細かい煌めきを纏わせる。
餅自体の色味は少し灰色掛かり、
水気を感じさせる潤いも湛えている。
一方、片栗粉の白い輝きは餅に染みて、
もはや「豆大福」全体に広がっている。
なので表面に射す灰色が、
餅の色なのか片栗粉の影なのか、
少し見た位では見分ける事が出来ない。

その白に点々と散る赤エンドウ豆は、
「豆大福」の表面に幾つも小山を作る。
餅を押し上げる黒く丸い姿は、
磨りガラス越しで見ている感覚に近い。
とはいえその感覚を作るのは、
赤エンドウ豆が盛り上げる餅ではない。
当然全体に及ぶ片栗粉の白い光沢が、
赤エンドウ豆の色を淡くするのだろう。

指で摘まんだ餅はやはり柔らかい。
新雪の様に窪んで指先をとらえ、
そのまま優しく纏わりついてくる。
それをヒョイと持ち上げると、
「豆大福」は少し扁平しただけで、
ほぼ姿を変えずに中空へ浮かびあがる。
その際も片栗粉は忠実に職務を全うし、
霧雨を思わせる程度に落ちただけだ。
その感触と共に中の餡子が動き、
沈み込んだ指先に柔らかさを伝える。
餅も餡子も十分柔らかいが、
全体に思ったよりも身持ちは確かだ。

一口齧り付くと想像以上の柔らかさだ。
押し込まれた餅は餡子を押し退け、
「豆大福」の真ん中にクビレが出来る。
端々では赤エンドウ豆が噛み潰されては、
その硬い歯応えで存在感を誇示してくる。
一気に伸された餅が前歯で切り裂かれると、
難なく「豆大福」は二つに分断される。
口の中に納まりべたっと広がる餅からは、
徐々に濃厚なアズキの風味が沸き立つ。
噛み口を見ると豊富な水気を含んだ餅は、
外見からの色味に対して意外に薄かった。

やがて這い出す様に餡子が舌の上に乗ると、
瞬く間に上品な甘さを染み渡らせる。
瑞々しい食感の中からはアズキの粒が、
コロコロと舌に転がり姿を見せる。
柔らかく仕上がったアズキは簡単に潰れて、
そこから豊かな風味が発散され、
甘さの中に染み込んで口の中を廻る。

その風味を纏った餅は柔らかな噛み心地を、
口に中の至る所で発揮し始める。
水気も豊富にあって只でさえ伸びる餅は、
餡子の水気を取り込んで更に柔らかくなる。
そうなると最早噛むというよりは、
突くといった感覚に近い食感になる。
そしてやがては伸すという行為に変わり、
餅は極限まで柔らかくなるのである。

一方で赤エンドウ豆はクシクシと砕け、
そこから漂う塩気が口の中へゆっくり広がり、
同時に豆の素朴な風味が密かに加わる。
そのままタフタフと緩く揺蕩うと、
自然に喉の奥へと流れだし、
そのまま胃の中へと流れ落ちたしまった。

駅直ぐに構える和菓子屋は、
神社へお参り前に寄るのに最適であり、
参拝の供を買い求めるも善し、
お供え物を揃えるも善しである。
または、上空を往く旅客機を見上げつつ、
「豆大福」を頬張るというのも、
それはそれで結構オツなモノである。



和菓子司 磯崎家
東京都大田区羽田4-11-7
9:00~19:00
月曜 定休
改札を出たら穴森ふれあい通りを右に進み、踏切を渡った直ぐ。徒歩1分程。

和菓子の店 ながしま【押上@京成押上線 東武スカイツリーライン 都営地下鉄浅草線 東京メトロ半蔵門線】

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豆大福(つぶあん):110円


直径約70㎜と大きな押上「ながしま」の「豆大福」は、
ほぼ丸に近く平べったい形をしている。
造形は表面が全体的にデコボコと波打っていて少しばかりイビツであり、
一見すると一級河川の河原にある丸く平たい石の様である。
とはいえその「豆大福」にしては“剛”の印象が強くなるのは、
表面に貼り付いている片栗粉の姿にも大きく影響されているだろう。
「ながしま」の「豆大福」全体を覆う片栗粉は全体に厚く塗されているが、
所々で剥落が生じていてそこから餅や赤エンドウ豆が顔を覘かせている。
一方の厚く塗された部分は片栗粉が塊のまま、
至る所で浮き上がったり反り返ったりして幾つも毛羽立ちを作る。

片栗粉の白い斑の下は紫水晶色の餅で覆われている。
餅の表面でも赤エンドウ豆の局所的な際立ったコントラストと、
内部の餡子が透けて浮かんだ淡く朧に浮かんだ影が映り模様を描いている。
出っ張った赤エンドウ豆にはタップリ片栗粉が積もり、
埋もれた豆は焦げ茶色の姿をポッカリ浮かべている。
手に取ってみると餅はハリがあって弾力が強く、
硬い所に置いた時にトンッと乾いた音を発する程である。
指先を弾き返す様な反発力と保ったまま少し窪んで、
そのまま平べったい「ながしま」の「豆大福」としての姿を維持し続ける。

一口齧り付いてみると餅特有の粘着力は控え目で、
上下の前歯でブチブチ音を発てて次々に噛み千切られる。
口の中に押し込まれた餅の表面からは硬い豆の質感が、
餅の向こうからもシッカリ伝わり頬の裏側を刺激する。
いわゆる餅的な“伸びる”という行為は想定外の様で、
引っ張ると僅かに伸びるが直ぐに噛み口からどんどん裂けて、
スクッと潔く二つに分断されてしまう。

その間ボロボロ剥がれて胸元に降り積もる片栗粉は思った通り大量である。
当然口に入った片栗粉も大量であり、
口の中で「豆大福」をコロコロ舌で転がせる程である。
食べ始めると片栗粉の粉っぽさの奥に強力な弾力があり、
押し潰すと押し返してくる反発力が見事である。
餅は不均一な厚みで餡子を包み込んでいて、
塗装された壁のように隙が無くキメ細かで密度が高い。
潤いが発する光沢は微粒子状で断面に貼り付いて、
それが一塊となってヌメリとした質感を発している。
ホンノリと塩気が漂うが総じて自然な味わいで、
強い噛み心地を堪能していると米の風味が舌に流れて来る。

一方で押し出された餡子はたちまち甘さと発散して、
アズキの濃厚な風味を充満させて行く。
明るい赤紫色で水気が少ない粒餡は密度が高く粘り気も達者で、
モッタリ重たい口当たりはかなりの食べ応えを実現させる。
アズキの種皮も子葉も滑らかな上に、
甘さの中にキリッと光るシッカリした塩気が、
濃厚なアズキの風味を更に強調させている。

同時にニュルリと口の中にあるありとあらゆる隙間へ入り込み、
水分を吸収して柔らかくなりはじめる。
そのまま餡子と餅は立ち位置を入れ替えて、
口の中で「豆大福」から俗にいう「あんころ餅」へと姿を変える。
餡子に絡まれた餅は暫くの間片栗粉に守られて自慢の弾力を維持していたが、
それに耐えられない赤エンドウ豆が餅の中で次々に砕ける。
ゴリゴリ確かな歯応えで噛み潰される赤エンドウ豆からは、
優しくまろやかな赤エンドウ豆の風味が漂いだす。
それが口の中に充満するアズキの風味に一筋のアクセントを加える。

やがて片栗粉も餡子と同化をして消えて行くと、
餅は水気に晒されながらユルリと餡子に包まれてしまう。
そして水気を得た餅は柔らかさを発揮して餡子と同調し始め、
やがては喉を通り過ぎて胃の腑へと落ちて行く。

天に届く程に高くて白い塔が建つ町にある、
地に近づかんと平たい姿をしたやはり白い「豆大福」は、
幾多の困難を乗り越えてきた東京の下町の歴史を濃縮した様な、
自身の姿を何時までもシッカリ保った強くて濃い菓子でした。


和菓子の店 ながしま
東京都墨田区文花1-1-5
7:30~19:00 
火曜 定休
A1出口から直進。押上駅前交番東の信号を渡り、左へ折れた先にある右折路へ入り更に直進。その先の十間橋通りに掛かる信号を渡った先。