首都大福東京

TOKYO METROPOLITAN DAIFUKU

首都大福東京

和洋菓子 たちばな【砂川七番@多摩都市モノレール】

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いちご大福(つぶあん):150円


砂川七番『和洋菓子 たちばな』では、店名の通り和と洋の菓子が並ぶ。
和菓子でいえば“大福”だけで三種類もある。
その三種類全てが豆餅で包まれている。
ソコから先ず「いちご大福」を選ぶ。
商品名は「いちご大福」だが、当然周りは豆餅に覆われている。
ビニールに包まれて、てっぺんに赤丸のシールが貼ってある。
それだけがイチゴ感を醸し出している。
その他は普通の「豆大福」と変わらない、白と黒の餅菓子だ。

ビニールがサラッと簡単に剥がれ、大きさ約62㎜の円柱に近い半球型が現れる。
餅は薄い灰色に少し青味が差し、ノソッとなだらかな曲面を描く。
その曲面の奥に、中に潜む餡子の色が浮かんで見える。
墨流しの様な薄い藤色が「いちご大福」全体に広がる。

そして餅の中では、深く黒々した色を放ち、たくさんの豆が埋まっている。
豆は丸のままや砕けていたりと様々に、大理石模様に満ちた餅を漂う。
表面近くで豆が餅を押し上げて小さな突起になる。
薄く伸された餅が豆の表面を覆うと、種皮の黒はぼやけ、丸い輪郭は失われる。

その上に霧を吹いた水滴の危さで、片栗粉がうっすらと貼り付いている。
肉眼で目視できない位の量は、外光を反射して初めて確認できる。
浮かぶ様に餅の上を覆う様は、桃の皮に生えた産毛を思わせ光景だ。
そして毛ほどの量が集まるだけで、この「いちご大福」では純白の輝を放つ。

手に取ると片栗粉の仕事が始まる。
「いちご大福」の表面は毛氈に似た指触りで覆われている。
餅は指先に食い込み窪みを作るが、スルスル擦り抜けて行く。
自重で見る見るずり下がり、重力に引かれ続ける。
柔らかい餅の奥には高密度の核があり、指の進攻を食い止める。
ソレを摘まむが餅の流動は止まらない。
そんな中、不意に「いちご大福」を裏返し、底面を見る。
餡子とイチゴを包み込んだ餅の閉じ口は、意外にラフである。
まるで雪山の雪庇に出来たクレパスの様だ。
その奥から、イチゴの赤と放つ瑞々しい光沢に加えて、甘く芳醇な香りが漂い出す。

香りに釣られて齧り付く。
高さのある「いちご大福」が口一杯に収まる。
前歯には緩やかな餅の感触と、その奥にある丸く硬い質感を感じ取る。
早速お出ましになったイチゴを、そのまま捕まえて前歯の間で固定する。
既に口の中にはイチゴの甘い香りが漏れ出す。
そして一気に噛み千切る。
ブシャリと湿った音を発て、前歯が「いちご大福」を貫通する。
真っ赤なイチゴの果汁が手の平に滴り、同時に口の中に押し寄せる。
瞬く間に突き抜ける鮮烈な酸味に、味覚は真っ白に飛び舌が気を失う。
その衝撃は餡子は元より、イチゴの味も吹き飛ばす。
ただ口の中が水浸しになった感触だけが伝わる。

しばらくして機能を回復した舌の周りで、痺れる酸味が揺蕩っていた。
新鮮なイチゴの香りは舌に染み入り、鼻腔へと上昇し充満する。
食い千切られた「いちご大福」は果汁にまみれ、口の中を滑らかに駆け回る。
いつの間にかイチゴの香りの向こうに、濃厚で強靭な餡子の甘さが満ちている。
十分な水気を吸収した餅と餡子が、粘り気と弾力を発揮し強かな口当たりを生む。
餅はネットリ口の中に貼り付いて、イチゴと餡子を取り込む。
アズキの全てを煮出した様な餡子のコクが、イチゴの酸味を凌駕し始める。

やがてイチゴと餡子は混ざり合い、潤いを増して餅と絡まる。
“大福”という朝生菓子が、イチゴの豊富な果汁により水菓子になる。
その中で頑なに硬い赤エンドウ豆が、舌を掠め、歯の間を擦り抜けて飛び交う。
そしてコリッと噛み潰されてなお、自己の存在理由を失わない。
顎に響くこの食感こそ、「豆大福」の証であり醍醐味である。
発散された淡い塩気を追いつつ、そんな風に思う。

それぞれの役割が存分に発揮されたところで飲み下す。
イチゴは舌に酸味と鼻腔に香りを、そして餡子は喉に貼り付く甘さを残す。
そこにこそ、果実と菓子の近くて遠い関係性を再認識できる。
そしてイチゴと「豆大福」の間に、改めてこれまでの歴史と、これからの可能性を見る。


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豆餅(つぶあん):280円[3個入り]


次に「豆餅」。
四角い豆餅の両辺が合わさり、筒状に餡子を包む。
名前こそ「豆餅」だが、コレは「豆大福」といえる。
そもそも餡子を餅で包んでいる時点で“大福”なのだ。
ましてや、その餅が豆餅ならば言わずもがな、である。

全長は約80㎜で、横から眺めると少し扁平している。
中央部分はふっくら丸く、ふくよかなハリが窺える。
その丸みが「豆餅」全体を取り巻く重量感の要因だろう。
そこから両端に向けて、稜線が緩やかに降下する。
両端をグルリ取り巻く断面は分厚い。
そしてデコボコと荒々しくイビツである。
外光が透過した餅は象牙色に染まり、米に似た色合いを放つ。
一方の表面は滑らかに整い、美しい曲面を作り上げる。
澄んだ透明感をはらんだ乳白色が表層を覆う。

その中でタップリの豆が、深い黒に染まった身を潜ませる。
深度が陰影に強弱を付けて、立体的に浮かび上がらせる。
分厚い餅以上に深い空間が「豆餅」の中に広がる。
豆の形は様々である。
丸や楕円を始め、線や点に至るまで伺える。
まさに暴走する水玉模様である。
それが気ままに餅に散って、餅とモノクロームの世界を描く。

その上にレース編みの様な片栗粉が覆う。
うっすらと繊細に塗されて、柔らかな光沢を湛えている。
それが「豆餅」の両端に近づくにつれ濃度を増す。
やがて断面に至って窪みに溜まり、抜ける様な白になる。
その姿に銀河系の中心に集まった星々の輝きを見る。

手に取ると、指先で餅はペコッと窪む。
それがクレーター状で広がり「豆餅」を変形させる。
指の腹には餅がシックリ吸い付く。
摘まみ上げると、見た通りの重量が圧し掛かる。
指の間で自重に負けた「豆餅」が、ゆっくりずり下がりだす。
やがて胴体には括れが生まれ、両端がお辞儀を始める。
次第に“く”の字に近づく「豆餅」を、急いで口元へ運ぶ。

スッポリと収まった「豆餅」を、唇で優しく押さえ込む。
ハリを湛えた弾力が唇全体を押し戻す。
再度力を込めて「豆餅」へ圧を加える。
口の中で「豆餅」の端が、舌先に柔らかく押し付けられる。
柔らかい感触が舌を撫で上げる中、甘さの前哨が味覚を揺さぶる。
それだけで口の中は潤い、水気を呼び起こす。
先ずは片栗粉が溶ける。
先端に集中していた片栗粉が蕩け、舌先を滑らせる。
圧力が分散して「豆餅」は潰され、やがて前歯で切り裂かれる。
餅の粘りがムチムチと、息の長い感触を発揮する。

ようやく噛み千切れた「豆餅」から、怒涛の甘さの気配が零れ出す。
分厚い餅に包まれた餡子は、まだその全容を見せていない。
今の所、口の中には餡子の匂い立つ様な風味だけが漂っている。
ただその風味だけで、口の中は水浸しにされるのだ。
やがて辛抱堪らず顎が動き始める。
モグモグ餅を揉み込むと、餡子がニュルリとうねり出る。

実体を見せた餡子は、容赦なく口の中を席巻する。
粘度の高い“つぶあん”が、周囲に満ちた水気に乗って拡散する。
隙間という隙間に侵入して、濃厚な甘さと風味を発信する。
熟した果実の様な甘さと香りが、舌に貼り付き鼻腔を駆け抜ける。
その渦巻く芳香の中心で、重量級の餅が弾む。
加えて餅の中に潜んだ丸い緩衝材が効き始める。
餅の中では際立って硬い豆だが、グニッと滑らかに噛み潰れる。
漂い出す仄かな塩気が、餅の甘さを押し出し、餡子の風味を加速させる。

そんな中でも、餅の支配力に衰えは見えない。
この「豆餅」に於いて、餅の威力は無限大である。
何時までも粘り、何処までも弾む。
圧倒的食感が「豆餅」全体を包み込む。
周りで揺蕩う餡子を取り巻き、全てを抱き込んで喉を通り過ぎる。
そのままズシリと重量感タップリに胃に落ちてゆく。
奥歯には餅の重量が、舌には餡子の甘さが、幻の様に残された。





和洋菓子 たちばな
東京都立川市幸町5-2-16
9:00~19:00
出入口3から芋窪街道沿いに進んだ先。徒歩約2分。