首都大福東京

TOKYO METROPOLITAN DAIFUKU

首都大福東京

栄光堂【若松河田@都営地下鉄大江戸線】

f:id:tokio_daifuku:20160409001952j:plain

豆大福(つぶあん):130円


新宿『栄光堂』で売られている「豆大福」は、
大きさ約54㎜でビニールに包まれている。
塗された片栗粉は餅の表面で小さな星屑の様な斑点となり、
「豆大福」を取り巻く小さな天の川を作り上げる。
その後ろでは雲海が詰め込まれた様な色合いの餅が覆い、
さながら白夜の星空の様な光景を描き出す。
その中に沢山沈み込んだ黒い影を浮かべる赤エンドウ豆が、
天空に佇む浮遊大陸の様なファンタジックな世界を醸し出す。
所々で餅から顔を覗かせた赤エンドウ豆は種皮に光沢を湛え、
中には潰れたり砕けたりしてクリーム色の子葉が見える場合もある。
全体的には小さな白いお手玉みたいな佇まいだが、
そこに内包しているモノは意外と荒々しくダイナミックである。

手に取って慎重にビニールを剥がしてやると、
簡単にコロンと転がり出てドシッと目の前に納まった。
摘まみ上げると僅かに片栗粉を散らしながら、
シッカリした重みを指先に食い込ませる。
指先を中心とした接地面は大きな窪みとなって広がるが、
「豆大福」全体にしてみると然程の変容では無い。
店頭に並んでからビニールを脱ぎ捨て、
そして目の前に取り出した今に至るまで形状は安定している。
指の腹には沈み込んだ片栗粉のクッと乾いた感触が広がり、
隙間を埋めてしっかり「豆大福」を捉える。
その間に僅かに剥落する片栗粉はキラキラ反射しながら、
ゆっくりと中空を舞い受け止める手の平へハラハラと降り積もる。

そのまま口元へ運び一口ガブリと喰らい付く。
歯に当る餅はフカッと柔らかく包み込み衝撃を受け止めるが、
そのままグイグイ押し込まれて「豆大福」の内部に伸びて行く。
餅と歯の接地店が次第に絞られ始めると、
「豆大福」全体が圧を受け止める様にペコッと窪み出す。
そのまま押し込まれた餅はやがて内部で上下背中合わせになり、
遂には退路を失いそのまま前歯にスパッと切り裂かれる。
その際に餅の弾力と共に吹き出すアズキの風味と、
サクッと軽快な歯応えを発した皮の食感が口の中に広がる。
そのまま口に収まった「豆大福」の半身は、
瞬く間に濃厚なアズキの風味で覆われ包み込まれる。
その容赦なく広がる濃厚な風味が猛威を振るう中で、
舌先には湧水の様に清らかで控え目な甘さが接触する。
途端に舌の表面には優しい甘さが吹き抜けて、
一瞬のうちに口の中全体をベールの様に覆ってしまう。

その甘さに誘発されて思わず顎が動き「豆大福」をムシャリと押し潰す。
ソレを合図に中にミッチリ仕込まれた餡子が口の中へ放出され、
甘さと風味と舌触りと全ての感覚を直撃して激しく刺激する。
滑らかな舌触りで水気も豊富な粒餡は、
トロリと舌の上に零れ落ちるとあっと言う間に溶け出し、
舌の上にアズキの皮だけ残して餅へと絡み出す。

餅は口の中と餡子に備わった水気で柔らかくなりながら、
コシを失うことなくモチモチと弾力を発揮する。
厚みはソコソコで水気は抑え目ではあるが、
コシは強くて伸びも十分に備えた餅である。
ほんのり塩気があるが噛み続ければ甘さが滲み出て、
刻々と柔らかく伸されて舌の上で踊り出す。

その噛み心地に煽られて顎の動きに一層の力が加わると、
アズキの皮よりは少し硬い歯応えが現れ始める。
とはいえ餅の中で潰れる赤エンドウ豆はとても柔らかく、
噛み潰すと直ぐにクリームに似た食感へと変わる。
そこからフワッと少しの塩気が穏やかに漂うと、
抑えた甘さの餡子が輪郭を増してシッカリと存在感を現し出す。

そして全てが柔らかくなった所で喉は限界を迎え、
次々に「豆大福」を胃袋へと誘導する。
しかしアズキの風味はその流れの中でもシッカリ口の中の残り、
全ての「豆大福」が消え去っても暫く残留して漂うのだった。

大都会新宿の片隅に佇む小さな和菓子屋は、
自ら“豆大福の店”と称する地元に愛された名店でもある。
その自信に裏打ちされた上品な仕上がりの「豆大福」は、
手作り感に満ちた優しい庶民菓子の王道を往く逸品である。




栄光堂
東京都新宿区若松町30-7
10:00~19:30
日曜 定休
若松口から出て左へ進み、最初の左折路を道なりに進んだ先の大久保通り沿い。

御菓子司 青柳 下石神井店【上井草@西武新宿線】

f:id:tokio_daifuku:20160404221723j:plain

豆大福(つぶあん):130円


上井草『御菓子司 青柳 下石神井店』の「豆大福」は約58㎜の大きさで、
少しばかり平たくなったイグルーといった風情を湛えている。

表面に塗された片栗粉は上部はうっすらと覆い、
キラキラ小さくて細かな光沢を放っている。
一方で側面にはシッカリと厚めに貼り付いて、
漆喰を盛った様な軌跡を残して「豆大福」を取り巻いている。
その光景は赤道付近から北上してきた熱帯低気圧が、
次第に台風へ変化して行く様を映した衛星画像を思わせる。

餅は透明感のある乳白色でキメは細かく、
「豆大福」のなだらかな弧を描いて覆っている。
その餅には沢山の赤エンドウ豆が埋もれている。
比較的「豆大福」の側面に寄り集まっては、
白い大地にボンヤリ黒い影を浮かべ点々と配されている。
所によっては赤エンドウ豆が餅を突き破り、
外部に黒い種皮を晒している場所もある。
そんな猛々しい赤エンドウ豆の上にも片栗粉は深々と降り積もり、
強い黒を優しい灰色へ染め直している。

ペリペリとビニール袋を開けるとスルスル滑り出て、
そこから摘まんだ指先には優しく柔らかな感触が伝わる。
シッカリ抱え込んだ指の腹を餅はペコリとへこませ、
それに伴って「豆大福」本体もグニャリと変形し始める。
しかしそれを口元まで運ぶまでにはすっかり落ち着いて、
指の間で安定姿勢を保ち中空に佇み出す。
「豆大福」の中心近くまで沈み込んだ指先に、
硬く確かな反発を感じ取った所で大きく開いた口の中へ納まり、
牡丹雪の様に片栗粉をボタボタ降らしながらゆっくり絞り上げる。

サラサラ片栗粉が擦れる向こうに、
ふんわり綿の様な餅の感触が唇を包み込む。
それをやんわりと受け止めてゆっくり押し込んでやると、
薄く伸びた餅は唇一杯に伸されて中心へと引き込まれてゆく。
やがて中に潜んだ餡子を押し退けて上下の唇は巡り合い、
薄くなって粘度を増した餅はペッタリ密着して融合を果たす。
そのまま極限まで薄くなった餅は霞の様に消えて、
いつの間にか「豆大福」は静かに両断を済ませるのだった。

「豆大福」から口の中へ移った片栗粉に導かれ、
半身はスルスル滑る様に移動してピタリと隙間なく納まる。
少しすぼめた頬の裏にはたくさんの小さく丸い感触が、
その硬い質感を如何無く発揮してポツポツ押し始める。
それに呼応する為更に口の中を狭め押し潰すと、
噛み口からアズキの濃厚な風味と抑え目の甘さがサッと広がる。
徐々に押し潰される「豆大福」は片栗粉が流れ去り、
水気に晒された餅が更に薄く伸びてゆく。
拘束力を失い始めた餅から赤エンドウ豆が弾き出され、
口の中にある窪みや溝へと押し遣られ、
そのまま奥歯へ誘導されて次々に噛み潰され始める。

そこから放出された素朴な甘さは勢力を拡大して、
餡子が支配していた上品な空間に素朴というエッセンスを加える。
舌に乗って蕩けた餡子と奥歯で砕かれ粉々になった赤エンドウ豆は、
次第に融合を始めて一体化を果たし餅に絡まり出す。
終始穏やかな甘さに支配された口の中ではクニクニ餅が弾み、
そのまま軽快なリズムを保ったまま喉の奥へ行進を始める。
そして柔らかいを越えて滑らかに進化した餅は、
流れる様に喉を通り過ぎて胃の中へと出発して行くのだった。

東京の和菓子を支え続ける大看板が作る庶民和菓子は、
素朴でありながら上品な味わいを湛えている。
特別な素材は使っていないが受け継がれた技術が特別に仕上げる。
職人の仕事とはこういう事を指しているのだろうと、
ふんわり柔らかな餅を摘まみながらしみじみ思うのだった。



御菓子司 青柳 下石神井
東京都練馬区石神井4-14-8
8:30〜18:30
火曜 定休
北口から左へ進み千川通りを渡って直進して少し進んだ先。

おむすびのなみき【椎名町@西武池袋線】

f:id:tokio_daifuku:20160327231314j:plain

豆大福(つぶあん):110円


椎名町『おむすびのなみき』の「豆大福」は大きさが約72㎜で、
中央部をペコリと窪ませてながら平たく成形されている。
全体的にはイビツでかなり個性的な姿ではあるが、
普通の「豆大福」でよく見られる豆が突出した小さな突起は少なく、
一見すると普通の大福かと思える位に稜線自体はなだらかである。
加えて豆が餅の中にスッポリ埋もれているので、
際立つ黒さが無く薄ら影を浮かべるだけに留まっている。

なので外見上は大変に白い。
餅自体は薄らと黄味掛かっていて総じて象牙色で、
キメが細かくツルリとした質感を全体に湛えている。
その透き通る質感が放つ色合いも要因である事は間違いないが、
何よりその表面を覆う片栗粉が尋常ではない。
先ずその質感の他に類を見ない過剰なまでのサラサラ感である。
当然「豆大福」の表面には滑らかに片栗粉が塗され、
粉雪が降り積もった様な起伏の少ないまだら模様を描いている。
そしてその粉雪感は「豆大福」に動きが加わると更に発揮される。

指先で摘んでみると指と餅の間でサラサラ動くのは序の口で、
持ち上げるとハラハラ下方へ砂時計の様に零れ落ち、
「豆大福」に出来た窪みに溜まった片栗粉は巻き上げられ中空を舞う。
そして「豆大福」表面を流砂の様に移動して、
吹き溜まりに集まりそこで新たな模様を描き始める。
周囲に出来るほんの僅かな空気の流れで、
「豆大福」の表面にある片栗粉は寄る辺なく動き出すのだ。

指に伝わる餅の感触は強いハリを保持しており、
指の周りだけが窪まずに「豆大福」全体で変形し始める。
当然その時にも片栗粉はサラサラ滝の様に流れ落ち、
受け止める手の平に小さなゲレンデを造り上げる。
その姿勢のまま口元へ「豆大福」を運び、
口の中に隙間が無くなるまで齧り付いてみる。

端から発揮される餅の弾力に両顎は押され、
一気に噛み切ろうとする動きを阻まれる。
歯に伝わる感触からは明らかに分厚く、
所々では内包された豆の硬い質感も発揮されている。
だが顎の進攻自体は止む事は無く、
餅の弾力をそのままに徐々に圧縮し始める。
受け止める餅は前歯を包み込みながら、
次第に内部の密度を高め始める。
やがて極に達した餅へ前歯がサクリと食い込むと、
後は絹を裂く様にスルスル切れ目が広がって行く。
そのままブチリと両断して口に納まった「豆大福」は、
周囲に従えた片栗粉を口の中に貼り付かせる。
サラサラと滑る「豆大福」を成すがままにして、
先ずは口の内圧を高めてクニクニと全体で揉み始める。
噛み口からは餡子を包み込む分厚い餅が、
十分に水気を湛えた光沢を張り付けているのが見える。

その外圧を跳ね返す為に餅が持ち前の弾力を発揮すると、
内部に潜んでいた餡子から漂うアズキの濃い風味が漏れ出る。
その香りに刺激を受けて口の中で水気が増し始めると、
片栗粉は押し流されて徐々にクニクニ噛み心地が増し出す。

その動きに同調して餡子が中から押し出されると、
素朴で濃厚な風味と甘さを口一杯に広げ始める。
舌に広がる懐かしさを湛えた甘さは更に味覚を刺激して、
モッタリとコシのある餡子を緩く滑らかに仕上げて行く。
アズキの皮がシャキシャキと軽快な歯応えを発揮しながら、
そのまま餅に絡まり餅に粘りを加え始め、
猛威を振るっていた弾力の無力化を図る。
加えて餅の内部に潜んでいた豆が次々に押し潰れて、
餅の中に異質な空間を造り出してゆく。
豆自体は甘さを含み感触は硬いが食感は柔らかい。
この甘さと風味と種皮の黒さは黒豆なのだろうか、
皺が寄った舌触りが独特の歯応えを生み出している。
そこから発せられる周囲の餡子とは異なる甘さが現れ、
味と香りに更なる変化をもたらしてくれる。

しかし水気を得た餅とはいえ弾力を失う事は無く、
弾力を粘り気へ返還させ変わらぬ歯応えと口当たりを発揮する。
そうしている内にやがて本能的に限界がやって来た。
口の中に満ち溢れた風味に晒された味覚が、
嚥下したいという欲求に駆られ「豆大福」を徐々に喉の奥へと運び、
そして遂には胃袋へと送り出してしまうのだった。

和菓子屋や餅屋とは異なる米屋の「豆大福」は、
米という食材の持つ能力を生かす術の素晴らしさを実感できる一品でした。
そして餡子の素朴で力強い味わいに驚きつつも、
そういえば店頭には豆類も置いてあったことに今更思い出す。
豆にも抜かりない米屋の和菓子に敬意を払いつつ、
創業昭和3年の老舗の底力を実感するのだった。



おむすびのなみき
東京都豊島区長崎1-3-11
8:00~19:00
月曜 定休
北口に出て左へ進み、すずらん通りのアーケード前を右に曲がった先。