首都大福東京

TOKYO METROPOLITAN DAIFUKU

首都大福東京

ふるや古賀音庵 幡ヶ谷本店【幡ヶ谷@京王新線】

f:id:tokio_daifuku:20160410235613j:plain

塩豆大福(こしあん):180円


幡ヶ谷『ふるや古賀音庵 幡ヶ谷本店』に並ぶ「塩豆大福」は、
約50㎜の大きさで透明の四角い菓子ケースに入れら売られている。

半球体に形作られた表面にビッシリ分厚く片栗粉が貼り付く様は、
剥きかけのゆで卵か白銀のスケイルアーマーを連想させる。
なのでその下にある餅は無数の白い小片に阻まれて、
隙間から僅かに覘く程度にしか確認する事ができない。
その僅かな隙間から伺える餅は少し濃い藍白色を発し、
染み出て来そうな水気を湛えた透明感を保持しているのが確認できる。
その餅と片栗粉の間には丸々とした風貌の赤エンドウ豆が、
餅の上に腰掛けているかの様に其処彼処で外に姿を晒している。
当然餅の中にも赤エンドウ豆は入っていて至る所で小山を作るが、
何しろ分厚い片栗粉のおかげでシッカリ確認が出来ない状態である。
僅かに見える餅に黒い影が浮かぶ箇所もあるが、
それが赤エンドウ豆か餡子かのか判断が難しいい状況下にあるのだ。

先ずはケースの蓋を開ける。
それだけで「塩豆大福」の表面は震え、
表面の片栗粉を剥落させる。
さらにそこから摘まみ上げようとするが、
ケース内にピッタリ収まった「塩豆大福」の周囲に、
指が差せ込める様な大きな隙間が見当らない。
なので半ば強引に指を食い込ませて吊り上げ、
「塩豆大福」をケースから引っ張り出す。
指先にはガサガサと流動する片栗粉と共に、
水風船を彷彿させる驚異の柔らかさを発揮する餅の感触が伝わる。
それは正しくコシやハリを超えた“弾む”指触りで、
とても固体とは思えない質感を湛えている。
しかしだからと言ってコシやハリが無い訳ではなく、
摘まんだ指先シットリ包み込むとそこからは一切の型崩れは無い。
そこから指の腹にシッカリ吸い付いて佇む「塩豆大福」を眼前へ置き、
摘まみ上げた時から終始剥落が止まない横っ腹へ静かに齧り付く。

唇で挟んだ途端に胸元へ片栗粉がバラバラ落ちて積もって行く。
そしてフルフル柔らかい感触が押し当てられるが、
あっと言う間に押し潰されて「塩豆大福」は次第にくびれ始める。
餅自体のハリは「塩豆大福」を守りきる程ではないので、
そのまま唇だけで難なく中身ごと両断される。
歯を立てる暇も無い位あっと言う間に分断された「塩豆大福」は、
柔らかい食感を発揮しながら流れる様に口の中へ納まる。
片栗粉と餅の滑らかな感触とその中身あるコロコロ硬い質感が、
頬の内側で三重奏を奏でて穏やかに主張を始める。
噛み口を見ると餅の質感は当にガラス細工の様で、
断面全体をヌメッとしたたり落ちそうな潤いが覆う。
フルフル震えて粘りに裏付けられた伸びは強固で、
餅全体がグッと伸びて餅全体でプチンと千切れるのだ。

一方で噛み口から零れ出た餡子は至る所に付着して、
そこから撒き散らされたアズキの風味が一瞬で世界を塗り替える。
芯の通った甘さを湛えた漉し餡は水気が少ない締まった食感で、
舌の上のコロンと出て来てそこで水気を吸い上げる。
やがてネットリ柔らくなる餡子から染み出す切れの良い甘さと、
立ち込めるアズキの豊かな香りに触発されて「塩豆大福」の咀嚼を始める。
ムチムチとボリュームを湛えた餅は震える様に潰れ、
そのまま中に仕込まれていた餡子に溶け込み瞬く間に一体化を成す。
餅に取り込まれていた赤エンドウ豆もそのまま引きずり込まれ、
繰り返される咀嚼の中で次々噛み潰されててゆく。
硬めの歯応えだが噛み潰せば直ぐにグニグニ粘りを持った食感になって、
仄かな苦みを含んだコクと豆本来の甘さが塩気を纏って広がる。
やがて細かく砕けた赤エンドウ豆は再び餅に絡め取られて、
そのまま餅と餡子の織り成す空間へ消えて行く。
その後はひたすら漉し餡のネットリした口当たりと、
モッタリ重たい食感が発揮される餡子主体の空間になる。
餅の柔らかさは継続的に発揮されるが、
徐々に水気を得てヒタヒタ舌を撫でる独特な感触へ変わる。
そして十分な水気を吸収してタプタプと口の中に満ちて、
遂には液体まであと一歩という状態までに至り、
やがてはゆっくりと飲み込まれて行くのだった。

とはいえここに至るまでそこまで噛んだ覚えは無く、
突き詰めれば含まれた赤エンドウ豆の数と同程度の範疇だろう。
つまり硬いから噛み砕くという自然の摂理以上の事が起こらない、
挙動が少ない静かな食べ心地がこの「塩豆大福」の真骨頂ではなかろうか。
そんな事を胸の片栗粉を払いながら思うのだった。



ふるや古賀音庵 幡ヶ谷本店
東京都渋谷区幡ヶ谷3-2-4
9:00~18:00
元日 定休
北口を出て甲州街道を左へ進む。左手に現れる六号通り商店街へ入り後はひたすら直進。

梅花亭 神楽坂本店【神楽坂@東京メトロ東西線】

f:id:tokio_daifuku:20160409234909j:plain

豆大福(つぶあん こしあん):220円


神楽坂『梅花亭』の「豆大福」は“つぶあん”と“こしあん”の2種類が、
約58㎜の大きさで柔らかいビニールにしっかり包まれ売られている。
それは腸詰の皮的な役割を担って店頭に積んで置ける位の強度を生み、
開け放った後の「豆大福」を少しばかり四角に成形する。
全体的にふっくら柔らかく膨らんだ角の取れたドーム型は、
野球のベースが二枚積み重なった姿を想像してもらえば近い筈である。

そして「豆大福」の表面に塗された片栗粉もまたシッカリしていて、
全体を見れば疎らなのだが塗り残しは無く餅を覆っている。
特に分厚く塗された箇所は結霜ガラスを彷彿させ、
そこがキラキラ反射すると表層がにわかに立体感を湛え始める。
不意に見る者を幻惑させる片栗粉の下では赤エンドウ豆が、
ゆったりと散ってモノトーンの世界を描き出す。
表層に近いモノは際立つ黒さの上に片栗粉を頂き、
深層に潜むモノは微かに青味を帯びた影を浮かべている。
その赤エンドウ豆達が泳ぐ餅の海は水晶みたいな透明感で、
霞色を湛えたキメ細やかな生地を滑らかに広げて餡子を覆っている。

摘まんでみると指先では片栗粉がククッと鳴り、
強い弾力を放つ餅は壁となって外圧に真っ向から立ち向かう。
果敢に指を押し返す餅に対抗して更に指先を食い込ませるが、
「豆大福」の形は僅かに揺るいだだけで直ぐに持ち直してゆく。
結局は指の間では大きな変化を見せないまま中空へと上がり、
シックリ重たい感触を指先に乗せて安定して見せるのだった。

先ずはその横っ面目掛け齧り付くと、
餅から発せられる圧倒的な弾力の前に思わず進行が滞る。
加えて唇に貼り付いたサラサラの片栗粉によって、
餅を捕らえ切れないまま齧り付いた力場を拡散させる。
ならばと今度は「豆大福」の表面に歯を立てて、
しっかり餅に食い込ませてから押し付けてみる。
ブリブリと力強い感触が両顎全体に響き、
そのままその弾力が緩衝材の役割を担い又も立ちはだかる。
しかし歯の先に集中した力は餅を押し退けながら、
抵抗を示す餅ごと突き進み「豆大福」の中心部へ沈降する。
やがてズンと鈍い衝突の後に餅は沈降が止まると、
次に前歯が餅の表面を切り裂き始める。
そしてブツブツ重い衝撃を随所で起こして、
遂に断裁され餅はゴロンと口の中へ収まるのだった。

既に口に中には餡子の風味で満ち始めている。
その芳香に促される様に口をモグモグ動かして咀嚼を始めるが、
今まで圧倒的だった弾力が忽然と失われる訳は無い。
噛み口を見ると厚みもたっぷりあって、
ギュッと締まった質感を放ち餡子を均等に覆っている。
半身になった今も強靭な食感を発揮するその表面に、
咀嚼と呼ぶには余りに脆弱な挙動を始める。
これでは“噛む”というよりは“揉む”近いが、
やがてソレが内部にあった餡子を押し出し始める。

駆り出された餡子は口の中で水気を得て、
徐々にその能力を開放し始める。
粒餡はモッタリ重い口当たりで水気自体は少ないが、
素朴で濃い甘さを秘めていてそれがネットリした感触で餅に絡まる。
皮の歯応えを残しながらも舌触りはなめらかで、
クニクニ滑る様な食感を奥歯の間で発揮する。
一方の漉し餡もまた密度の高いシッカリした口当たりである。
本来は水気も少なくモロモロ零れる位に硬めの仕上がりだが、
ネットリ緩やかで粘度も高く至る所に貼り付いて来る。
甘さは抑え目で何処までも上品でアズキの風味も優しく、
水気を得た後でもスーッと舌の上を漂い口の中を優しく流れる。

一方体積が減った「豆大福」は今や袋状の豆餅みたいなモノである。
すかさず中の赤エンドウ豆諸共噛み潰すと餅はグングン弾み、
中ではその衝撃を真っ向から浴びた赤エンドウ豆がグシグシ潰れて行く。
赤エンドウ豆は種皮は硬めだが中は柔らかく、
確かな塩気と豆自体の豊かな甘さを備え持っている。
大地が凝縮した濃厚な風味を発散したら、
たちまち周りを取り囲む素材と融合を果たし始める。
赤エンドウ豆から発するクセのある風味を取り込んだ餅は、
ソレと共に吸収した水気ですっかり柔らかい感触に変わる。

周りで絡まる餡子の甘さが赤エンドウ豆の甘さに混ざり、
明確なコントラストを発生させて彩りを与える。
結局終ぞ弾力を失わなかった餅は柔らかく伸されて喉え流れ、
甘い海に揺蕩う白鯨の様な圧倒的存在感を保ったまま、
胃袋という名の深海へと落ちて行くのだった。




梅花亭 神楽坂本店
東京都新宿区神楽坂6-15
10:00〜20:00
不定休
神楽坂口に出て早稲田通りを左へ進んだ先。

栄光堂【若松河田@都営地下鉄大江戸線】

f:id:tokio_daifuku:20160409001952j:plain

豆大福(つぶあん):130円


新宿『栄光堂』で売られている「豆大福」は、
大きさ約54㎜でビニールに包まれている。
塗された片栗粉は餅の表面で小さな星屑の様な斑点となり、
「豆大福」を取り巻く小さな天の川を作り上げる。
その後ろでは雲海が詰め込まれた様な色合いの餅が覆い、
さながら白夜の星空の様な光景を描き出す。
その中に沢山沈み込んだ黒い影を浮かべる赤エンドウ豆が、
天空に佇む浮遊大陸の様なファンタジックな世界を醸し出す。
所々で餅から顔を覗かせた赤エンドウ豆は種皮に光沢を湛え、
中には潰れたり砕けたりしてクリーム色の子葉が見える場合もある。
全体的には小さな白いお手玉みたいな佇まいだが、
そこに内包しているモノは意外と荒々しくダイナミックである。

手に取って慎重にビニールを剥がしてやると、
簡単にコロンと転がり出てドシッと目の前に納まった。
摘まみ上げると僅かに片栗粉を散らしながら、
シッカリした重みを指先に食い込ませる。
指先を中心とした接地面は大きな窪みとなって広がるが、
「豆大福」全体にしてみると然程の変容では無い。
店頭に並んでからビニールを脱ぎ捨て、
そして目の前に取り出した今に至るまで形状は安定している。
指の腹には沈み込んだ片栗粉のクッと乾いた感触が広がり、
隙間を埋めてしっかり「豆大福」を捉える。
その間に僅かに剥落する片栗粉はキラキラ反射しながら、
ゆっくりと中空を舞い受け止める手の平へハラハラと降り積もる。

そのまま口元へ運び一口ガブリと喰らい付く。
歯に当る餅はフカッと柔らかく包み込み衝撃を受け止めるが、
そのままグイグイ押し込まれて「豆大福」の内部に伸びて行く。
餅と歯の接地店が次第に絞られ始めると、
「豆大福」全体が圧を受け止める様にペコッと窪み出す。
そのまま押し込まれた餅はやがて内部で上下背中合わせになり、
遂には退路を失いそのまま前歯にスパッと切り裂かれる。
その際に餅の弾力と共に吹き出すアズキの風味と、
サクッと軽快な歯応えを発した皮の食感が口の中に広がる。
そのまま口に収まった「豆大福」の半身は、
瞬く間に濃厚なアズキの風味で覆われ包み込まれる。
その容赦なく広がる濃厚な風味が猛威を振るう中で、
舌先には湧水の様に清らかで控え目な甘さが接触する。
途端に舌の表面には優しい甘さが吹き抜けて、
一瞬のうちに口の中全体をベールの様に覆ってしまう。

その甘さに誘発されて思わず顎が動き「豆大福」をムシャリと押し潰す。
ソレを合図に中にミッチリ仕込まれた餡子が口の中へ放出され、
甘さと風味と舌触りと全ての感覚を直撃して激しく刺激する。
滑らかな舌触りで水気も豊富な粒餡は、
トロリと舌の上に零れ落ちるとあっと言う間に溶け出し、
舌の上にアズキの皮だけ残して餅へと絡み出す。

餅は口の中と餡子に備わった水気で柔らかくなりながら、
コシを失うことなくモチモチと弾力を発揮する。
厚みはソコソコで水気は抑え目ではあるが、
コシは強くて伸びも十分に備えた餅である。
ほんのり塩気があるが噛み続ければ甘さが滲み出て、
刻々と柔らかく伸されて舌の上で踊り出す。

その噛み心地に煽られて顎の動きに一層の力が加わると、
アズキの皮よりは少し硬い歯応えが現れ始める。
とはいえ餅の中で潰れる赤エンドウ豆はとても柔らかく、
噛み潰すと直ぐにクリームに似た食感へと変わる。
そこからフワッと少しの塩気が穏やかに漂うと、
抑えた甘さの餡子が輪郭を増してシッカリと存在感を現し出す。

そして全てが柔らかくなった所で喉は限界を迎え、
次々に「豆大福」を胃袋へと誘導する。
しかしアズキの風味はその流れの中でもシッカリ口の中の残り、
全ての「豆大福」が消え去っても暫く残留して漂うのだった。

大都会新宿の片隅に佇む小さな和菓子屋は、
自ら“豆大福の店”と称する地元に愛された名店でもある。
その自信に裏打ちされた上品な仕上がりの「豆大福」は、
手作り感に満ちた優しい庶民菓子の王道を往く逸品である。




栄光堂
東京都新宿区若松町30-7
10:00~19:30
日曜 定休
若松口から出て左へ進み、最初の左折路を道なりに進んだ先の大久保通り沿い。