首都大福東京

TOKYO METROPOLITAN DAIFUKU

首都大福東京

梅花亭 神楽坂本店【神楽坂@東京メトロ東西線】

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豆大福(つぶあん こしあん):220円


神楽坂『梅花亭』の「豆大福」は“つぶあん”と“こしあん”の2種類が、
約58㎜の大きさで柔らかいビニールにしっかり包まれ売られている。
それは腸詰の皮的な役割を担って店頭に積んで置ける位の強度を生み、
開け放った後の「豆大福」を少しばかり四角に成形する。
全体的にふっくら柔らかく膨らんだ角の取れたドーム型は、
野球のベースが二枚積み重なった姿を想像してもらえば近い筈である。

そして「豆大福」の表面に塗された片栗粉もまたシッカリしていて、
全体を見れば疎らなのだが塗り残しは無く餅を覆っている。
特に分厚く塗された箇所は結霜ガラスを彷彿させ、
そこがキラキラ反射すると表層がにわかに立体感を湛え始める。
不意に見る者を幻惑させる片栗粉の下では赤エンドウ豆が、
ゆったりと散ってモノトーンの世界を描き出す。
表層に近いモノは際立つ黒さの上に片栗粉を頂き、
深層に潜むモノは微かに青味を帯びた影を浮かべている。
その赤エンドウ豆達が泳ぐ餅の海は水晶みたいな透明感で、
霞色を湛えたキメ細やかな生地を滑らかに広げて餡子を覆っている。

摘まんでみると指先では片栗粉がククッと鳴り、
強い弾力を放つ餅は壁となって外圧に真っ向から立ち向かう。
果敢に指を押し返す餅に対抗して更に指先を食い込ませるが、
「豆大福」の形は僅かに揺るいだだけで直ぐに持ち直してゆく。
結局は指の間では大きな変化を見せないまま中空へと上がり、
シックリ重たい感触を指先に乗せて安定して見せるのだった。

先ずはその横っ面目掛け齧り付くと、
餅から発せられる圧倒的な弾力の前に思わず進行が滞る。
加えて唇に貼り付いたサラサラの片栗粉によって、
餅を捕らえ切れないまま齧り付いた力場を拡散させる。
ならばと今度は「豆大福」の表面に歯を立てて、
しっかり餅に食い込ませてから押し付けてみる。
ブリブリと力強い感触が両顎全体に響き、
そのままその弾力が緩衝材の役割を担い又も立ちはだかる。
しかし歯の先に集中した力は餅を押し退けながら、
抵抗を示す餅ごと突き進み「豆大福」の中心部へ沈降する。
やがてズンと鈍い衝突の後に餅は沈降が止まると、
次に前歯が餅の表面を切り裂き始める。
そしてブツブツ重い衝撃を随所で起こして、
遂に断裁され餅はゴロンと口の中へ収まるのだった。

既に口に中には餡子の風味で満ち始めている。
その芳香に促される様に口をモグモグ動かして咀嚼を始めるが、
今まで圧倒的だった弾力が忽然と失われる訳は無い。
噛み口を見ると厚みもたっぷりあって、
ギュッと締まった質感を放ち餡子を均等に覆っている。
半身になった今も強靭な食感を発揮するその表面に、
咀嚼と呼ぶには余りに脆弱な挙動を始める。
これでは“噛む”というよりは“揉む”近いが、
やがてソレが内部にあった餡子を押し出し始める。

駆り出された餡子は口の中で水気を得て、
徐々にその能力を開放し始める。
粒餡はモッタリ重い口当たりで水気自体は少ないが、
素朴で濃い甘さを秘めていてそれがネットリした感触で餅に絡まる。
皮の歯応えを残しながらも舌触りはなめらかで、
クニクニ滑る様な食感を奥歯の間で発揮する。
一方の漉し餡もまた密度の高いシッカリした口当たりである。
本来は水気も少なくモロモロ零れる位に硬めの仕上がりだが、
ネットリ緩やかで粘度も高く至る所に貼り付いて来る。
甘さは抑え目で何処までも上品でアズキの風味も優しく、
水気を得た後でもスーッと舌の上を漂い口の中を優しく流れる。

一方体積が減った「豆大福」は今や袋状の豆餅みたいなモノである。
すかさず中の赤エンドウ豆諸共噛み潰すと餅はグングン弾み、
中ではその衝撃を真っ向から浴びた赤エンドウ豆がグシグシ潰れて行く。
赤エンドウ豆は種皮は硬めだが中は柔らかく、
確かな塩気と豆自体の豊かな甘さを備え持っている。
大地が凝縮した濃厚な風味を発散したら、
たちまち周りを取り囲む素材と融合を果たし始める。
赤エンドウ豆から発するクセのある風味を取り込んだ餅は、
ソレと共に吸収した水気ですっかり柔らかい感触に変わる。

周りで絡まる餡子の甘さが赤エンドウ豆の甘さに混ざり、
明確なコントラストを発生させて彩りを与える。
結局終ぞ弾力を失わなかった餅は柔らかく伸されて喉え流れ、
甘い海に揺蕩う白鯨の様な圧倒的存在感を保ったまま、
胃袋という名の深海へと落ちて行くのだった。




梅花亭 神楽坂本店
東京都新宿区神楽坂6-15
10:00〜20:00
不定休
神楽坂口に出て早稲田通りを左へ進んだ先。