首都大福東京

TOKYO METROPOLITAN DAIFUKU

首都大福東京

庄瀬【中野@中央本線 東京メトロ東西線】

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豆大福(つぶあん):110円


中野『庄瀬』の「豆大福」は大きさ約52㎜で、
かなり半球体に近しい姿で菓子棚に並んでいる。
表面を覆う片栗粉はほぼムラ無く均一に塗され、
表面に顔を出した赤エンドウ豆もろとも真っ白に染め上げる。
その赤エンドウ豆は餅の表面に幾つも飛び出てはいるが、
それらは皆一様に押し戻されて餅に埋め込まれ、
まるで押しボタンの様な姿になって餅に埋もれている。
そしてそれ以外の赤エンドウ豆は餅の中にしっかり隠れて、
薄らと淡い影とほんの小さな出っ張りをこしらえてている。
なので「豆大福」全体を覆う餅は比較的ツルリとしていて、
角度によってはきれいな弧を描きながら澄んだ透明感を湛える。
そうなるとこの「豆大福」の白さの大本は餅なのか、
それともやはり全体を隈なく覆う片栗粉の仕業なのか。
そんな事を目の前でキラキラ細かい光を反射させる、
稀に見る美形の「豆大福」を眺めながら考える。

手に取ってみると餅はフニャリと柔らかながら、
それでも型崩れを起こさない確かなコシも備わっている。
指先にはサラサラと滑らかにスベる片栗粉の下で、
ツルリとキメの細かい餅の質感がしっかりと存在を告げる。
目の前に浮かぶ姿は見事なまでの上弦の月であり、
木星の軌道を漂う衛星イオを彷彿とさせる。
そして指先に腰掛ける様な優しい荷重を受け止めつつ、
綿花の様な「豆大福」に齧り付いてみる。

シッカリとした餅の弾力に迎えられた唇が、
あっと言う間にサラサラ滑らかな片栗粉に覆われる。
そこから噛み千切ろうと力を込めると、
どんどん反発を増してやがてはサクリと切り分けられる。
口の中は圧倒的な柔らかが充満し始め隙間を浸食し、
その中に潜む丸くて硬い物体がコツコツぶつかり始める。
モグモグ口を動かし始めると餅の感触は、
次第にモチモチと粘り強い食感へ変わり口の中に密着する。
噛み口を見ると「豆大福」の外周を覆う餅は、
均一の厚さで中にドッシリ入る餡子を包み込んでいる。
ツルンと滑らかな舌触りでクニクニ噛み続けると、
口の中をフワッと米の香りと甘さが滲み出す。

その硬めの仕上がりがもたらす粘着力に翻弄されもがいていると、
やがて噛み口からニュルリと密度の高い餡子は現れる。
濃厚なアズキの風味とアッサリした甘さの粒餡は、
水気が少なくモッタリ重たい口当たりを発揮する。
その甘さはとても素朴な上にほんのりとフルーティで、
咀嚼を繰り返すと次第にネットリとした食感を発揮する。
やがて程良く緩くなった所で今だ弾力を継続中の餅に忍び寄り、
同化の機会を虎視眈々と伺っている。

内包していた餡子を失った餅は次第に潰れて、
その際に餅に潜んでいる赤エンドウ豆達も次々に砕けて行く。
砕けた赤エンドウ豆はその場で持ち前の風味を放出し、
外に広がる甘い世界にゆっくりじんわり漂い出す。
ほんのり塩気が効いた赤エンドウ豆のコクと風味が、
餅の中から芽吹くように顔を出して零れ出す。
やがて口の中にシッカリした種皮の歯応えと、
グシグシ砕ける子葉の食感を残して餅の中へ絡め取られる。

一方で口の中で水気を取り込んだ餡子は全体に広がり、
その甘さと風味を餅にシットリと絡ませて包み込む。
そして餅は柔らかく変容し始めると咀嚼の勢いに巻き揉まれ、
そのままトロンと伸びて遂には喉の奥へと追い込まれる。
終いにはすっかり姿を失って一塊の「豆大福」になり、
ストンと胃袋へ落ちて行くのだった。

この丸くて美しい姿勢を誇る『庄瀬』の「豆大福」は、
その姿を口の中でも永らく維持し続ける。
見た目は“柔”なのに口当たりは意外に“剛”という二面性に、
食べる度に驚嘆できる事って早々無いハズである。
ナルホドこれが所謂“ギャップ萌え”と云うヤツかと、
さすがサブカルチャーが跋扈する、
聖地・中野の片隅で営まれるだけの事はある。



庄瀬
東京都中野区新井2-20-13
10:00~20:00
日曜 その他不定休あり
北口に出て中野通りを直進。早稲田通りを超えて最初の左折路に入り、二本目の右折路に入った直ぐ先。