首都大福東京

TOKYO METROPOLITAN DAIFUKU

首都大福東京

武州庵いぐち【武蔵関@西武新宿線】

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豆大福(つぶあん):145円


武蔵関「武州庵いぐち」の「豆大福」は、
約58㎜の大きさで少し平たいドーム型をしている。
表面に薄く塗された片栗粉は所々でコロニーを形成して、
斑に貼り付きソコから一層の白さを放っている。
片栗粉に覆われた餅は少しざら付いた見た目で、
毛足の短いベルベットが起毛した微細な凹凸に見える。
赤エンドウ豆は餅の中で磨りガラスの向こうに置かれたみたいな、
ボンヤリしたシルエットを浮かべて中程に点々と散ればっている。
「豆大福」を包むビニール袋から取り出そうと手に取ると、
パリッとしたビニール越しから硬さの無いフワッとした感触が伝わる。
意表を突いた柔らかさに気を引き締め慎重にビニール袋を開け、
泡のような感触の「豆大福」を摘まみ出し手の平に乗せる。
綿の様な表面の下にはシッカリとした芯が存在していて、
指先はその段階で押し留められて「豆大福」を確実にホールドする。
直に触れた餅はより一層の滑らかさで指先を包み込み、
片栗粉と共にサラサラしたし感触を発揮する。
その感触は餅に触れた時に感じる物とは遥かにかけ離れているが、
当初からのドーム型をしっかり維持し続ける自重に負けない強靭さをもつ。

一口齧り付くと口に含んでみると「豆大福」は、
最初はパフッと大人しく納まり口の中で密閉空間を作り出す。
そのまま?み千切ろうとすれば上下の前歯はスーッと交錯して、
気付かないうちに「豆大福」を真っ二つに両断する。
生クリームでも噛み千切っているみたいな抵抗感の無さである。
そのまま咀嚼を開始しようと口に中に力を込めると、
下は「豆大福」を押し潰し表面の餅を突き破る。
舌はそのまま中の餡子へ突入してやがて上顎に触れると、
そのまま撹拌された「豆大福」は餡子の甘さと風味に支配される。
餅は淡い黄味がある乳白色を帯びていて、
全体的に結構な厚めで瑞々しい光沢を放っている。
細かい気泡が沢山あって口の中でホロリ崩れる食感を生む。
餅自体にはハリはあるがコシは無く粘りはあるが伸びと結束力も少ない。
カフカ綿の様な食感は噛めば甘さが滲み出てほんのり米の風味が広がる。

一方の餡子は甘さを抑えた上品さにアズキの風味が凝縮している。
粒立ちも良く水気を保って滑らかな舌触りで、
粉雪の様に舌の上に降り積もると周囲の水分を吸収して、
トロリ蕩けて口の中をサラサラと流れゆく。
すっかり餡子色に染め上げられた口の中では、
餅はとっくに一般的な餅としての立場を捨てて、
2~3度咀嚼をしただけでサッサと餡子と一体化を果たす。
その間に餅によくある弾力やコシといった歯応え的な主張は無く、
まさに泡のように儚く舌先で震えながら餡子の中へ消えて行った。
取り残された赤エンドウ豆がコロコロ口の中を転げまわるが、
ソレもその内に餡子の渦に飲み込まれ次々にペチペチ噛み砕かれる。
とはいえ一般的な「豆大福」からしてみれば柔らかめであり、
簡単にグシグシと潰れながら赤エンドウ豆の風味を発散する。
塩気は無く青味が少し漂うだけの控え目な仕上がりで、
甘さの中にアクセントを加える役割を十分に果たした後は、
そのまま柔らかいうねりに飲み込まれす。
その歯応えを感じてようやくこの御菓子が「豆大福」だった事を思い出す。
口の中で何度も折りたたまれて餡子に支配された柔らかなカタマリは、
そのままスルリと喉を通りぬけて胃の腑へと落ちて行くのだった。

口の中に漂う優しい残り香を確認した後に残りを口へ放り込み、
やはり先程と同じ行程が繰り返される事を再認識する。
確かに少し柔らかいが確実に「豆大福」であったお菓子が、
口に入れた途端に泡へ変わる驚きの現場を体験する。
手に取った時から既に感じていた嬉しい違和感は、
噛み締めた途端に異次元へと弾き飛ばしてくれた。
例えば目隠しされてから口の入れられたなら、
この食べ物が「豆大福」と答える自身はあるか?
この「武州庵いぐち」の「豆大福」はそれ位一般認識とかけ離れた、
過去最柔を誇る「豆大福」であった。





武州庵いぐち
東京都練馬区関町北1-23-10 いぐちビル1F
8:30〜19:00
駅南口を出て左手直ぐ。